いま説明したように、MTコネクターづくりでは、随所に先生とT先生の協力、それに患者さんの参加がある。だからこそ、オーダーメイドで、その患者さんにピッタリ合うMTコネクターができる。T先生に診察の時間が迫ってきた。技工所との一体化とは離れるが、時間のことから、T先生に、MTコネクターにとくに使用上の注意といったようなものがあるかを尋ねてみた。「いくつかありますが、そう難しいことではありません。まず、寝るときまたは長時間のお昼寝のときは基本的に外して、水に浸けていただきたいことです。MTコネクターには、金属床以外に、薄い床がついているものもあります。ピンクの部分がそれですが、ここはレジンという人工樹脂でできています。レジンは乾燥に弱く、つねに水分を必要とするからです。ただ高齢の方で、夜中にトイレへいく際につけていないと足元がふらつく恐れのある場合は、つけたまま休んでいただくこともあります。詳しいことは相談していただけば、必要なアドバイスをさせていただきます」レジンが水分を必要とすることを聞いて、私には思い当たることがあった。入れ歯をつけたまま寝ると、朝起きたときに口の中がカラカラになっていることがある。その理由が、樹脂のレジンが口の中の水分を奪ってしまうことにあったのだ。「次は、洗い方ですね。水道水で流しながら、専用のブラシで洗っていただきます。毎食後に洗うことができれば最善ですが、1日1回、夜寝る前にしっかり洗っていただくだけでも十分です。ただし、歯磨き粉は絶対に使わないでください。歯磨き粉には研磨剤が含まれていて、コネクターに傷がつくからです。基本的に、入れ歯洗浄剤は使わなくて結構です。汚れが気になってきたら来院していただくと、無料で洗浄します。殺菌したい場合は、80度程度のお湯につけてください」いま「専用のブラシ」という話が出た。MTコネクターをつくると「初めての義歯セット」が提供される。そのセットには「義歯用歯ブラシ」と「プラーク(歯垢)コントロール用歯ブラシ」、それに「入れ歯ケース」がついている。T先生の言った「専用のブラシ」とは、義歯用歯ブラシのことになる。「あとブラッシングですね。硬い歯ブラシで、歯ぐきをしっかりマッサージしてください。上顎(アゴ)の天井の部分、歯ぐきの山のところ、下顎(アゴ)でも歯ぐきの山や歯の下の歯ぐき部分もブラッシングしていただきたいです。毎日きちんとブラッシングしていただくと、歯ぐきが締まってきて、丈夫な歯ぐきになります。MTコネクターの安定もよくなります」いまのT先生からのアドバイスは、MTコネクター以外の入れ歯でも共通する。とくに、MTコネクターで注意すべき点はないのだろうか?「とくに注意していただきたい点が、1つあります。コネクターには関係がないとご自身が判断されて、コネクターを入れた以外の歯を治療されたり、歯石を取られたりする場合です。他の歯科クリニックで治療されると、MTコネクターがまったく使えなくなることがあります。新たにつくり直しとなると、時間もお金もかかることになります。他の歯科クリニックやご自分で調整されると、MTコネクターは使えなくなると考えていただいてもいいでしょう」MTコネクターを入れた以外の歯を治療したりすると、口の中の状態がガラリと変わる。それまでの口の中の状態に合うように、MTコネクターは精密につくられているため、使えなくなってしまうのだ。ここは、ぜひ注意しなければならないポイントになる。しかし、MTコネクターをつくった患者さんが遠隔地という場合もある。その場合はどうすればいいのか?「他の歯科クリニックで歯の治療が必要なときは、事前に私どもに連絡をするように言っていただきたいと思います。言っていただければ、どうすればよいのかアドバイスさせていただきます」予約していた患者さんがクリニックに来られたため、T先生は診察室のほうに向かう。T先生の挨拶を受けたあと、私は先生と2階に向かった。